2009722 トカラ列島 宝島
- 今からでも、遅くない -
見ざるは一生の悔い
新年度の慌ただしさも過ぎ、我が家の激甚災害も落ち着きを見せ始めたのは5月も半ばのこと。時間的・精神的に余裕が
出来ると、再び日食のことが頭の中を行き来するようになってきた。「子供の頃から憧れてきた今回の皆既日食を見逃せば
きっと悔いが残る」、そんな思いが湧いてきた。
だが、どうやったら皆既日食を見に行くことができるだろうか?
引っ越しの日に目にした、あの上海皆既日食ツアーの広告が載った新聞は、どさくさの中、案の定行方不明になっていた。
旅行業者の電話は調べれば分かるのだが、ずいぶん時間もたってしまっているので、なんだかためらわれるし、もう締め切
られている可能性も高い。
第一、私は、この日食を国内で見たいと考えていたはずではなかったか。
実は1年前、2008年8月に中国で皆既日食があった時のことである。
あの日食は、休みを取りやすい時期であったし、シルクロードでおなじみの敦煌で見らるというのも魅力であった。
だが、高三の息子が高校野球をやっている。もしかして甲子園、なんてことになれば(実際にはならなかったが・・・)
高額なキャンセル料が発生するし、なにより、来年には皆既日食が日本国内で見られるのだ。そんな理由から、敦煌へは
行かないことにした経緯があった。
海外で見るならば、別に今回でなくとも良いのだ。日本の国内で見られるということに、2009年7月22日の皆既日食の
意味があるのだ。(発想が国粋主義的だなあ・・・)
さらに2009年の春ごろから、新型インフルエンザが世界的に猛威をふるっている。海外渡航者が帰国して発病し、やれ
隔離だ、接触者もホテルに缶詰にしろ、などと大騒ぎになっている。職場でも海外渡航は厳しくチェクされるようになった。
上海へ、日食を見に行きますとは、なかなか言い出しにくい環境になってもいたのである。
徒然なるままに、日暮らしネットに向かひて、ツアーを捜せば
久しぶりに、本当に久しぶりに、インターネットで日食を検索してみる。
この時初めて、トカラ列島へ渡るためには大手旅行代理店のツアーに参加する以外に方法がないこと、人数限定である
こと、申し込みはすべてインターネットで行われたこと、、そしてすでに日食アンケートはもちろん、第一次・第二次の募集も
終わってしまっていること、などを知った。
やはりダメか・・・。
トカラ列島がだめでも、その北側の屋久島・種子島や、南側の奄美大島なども皆既帯に入っていたはずだ。
種子島の宇宙センターで、ロケットを前景に見る皆既日食もオツなものであろう。鉄砲伝来の地も訪れてみたい。いや、
宇宙センターは、皆既帯にギリギリはいらないか?だいたいからして、そのときロケットはセットされているのか?
屋久島の山は、老人性ヒザ関節症にはちょっとキツイだろうなあ・・・。第一、ここは1年に365日雨が降ると言われる
島である。天文道楽をするには不向きであろう。
皆既帯の南側を考えてみる
トカラ列島の南、奄美大島では、島の北1/3ほどが皆既帯に入る。
北へ行くほど皆既の中心線に近くなり、従って皆既継続時間が長くなる。島の経済的中心地、名瀬では継続時間は1分
ほどだが、島の北側では3分を超えるという。
そういえば数年前、スキューバダイビングをしに奄美を訪れた大学時代の後輩のO君から「奄美の街は、すでに皆既日食
一色だった」と聞いたことがあるのを思い出した。彼は、なかなかの奄美フリークであるという。
そこで奄美大島で検索してみる。トカラ列島と同じ旅行代理店の、ツアー募集のホームページがヒットした。
羽田発・伊丹発・鹿児島港発など、いくつかのツアーが出ている。そこで、羽田発のページをたどっていくと、「すでに
満員です」となっている。伊丹発も同様だ。仕事を長く休むわけにはいかないという都合上、飛行機は往復の時間を節約で
きて良さそうなのだが、誰しも考えることは同じなのであろう。大都市発着というのも人気の理由かもしれない。飛行機
直行のツアーに申し込むのは、なかなか厳しそうだ。
では、鹿児島港発の船便は?と、ページを進めると、なんと、まだ申し込めるではないか。奄美大島の北側でテント生活、
十数万円だという。まだ国内で日食を見る余地があったのだ。なんだか、ワクワクしてきた。
奄美大島は文字通り大きな島だし、観光地としての環境も整っている。空港もある。受け入れられる人数がトカラ列島と
は桁違いなので、この段階でもツアーに空きがあるに違いない。
奄美大島へ行くべきか、否か。この時期、仕事は休めるか、否か。体力は持つか、否か。そんなハムレットみたいなこと
を考えながら数日を過ごす。この間毎日、奄美大島行きのツアーが満席になっていないかチェックを続ける。満席になった
らもう間に合わないのに・・・。愚かな行為だと自分でも分かりながら止められない。
奄美のツアーを確認するついでに、同じ会社が独占している、トカラ列島へのツアーのホームページを眺めてみる。
トカラ列島の七つの島々へ、宿泊条件(民宿・体育館・テント)・滞在日数・発着地など、様々な条件で、23もの
コースが紹介されている。奄美に比べると値段は三倍、滞在日数は数日から十日あまり。奄美に比べて、長目になっている。
滞在期間の長短や宿泊施設の違いの割に、ツアー料金はほとんど同じであることは、前々章で触れた。
「申込み」と言うところをクリックするといくつかのコースが出てくる。しかし、もう、二次募集まで済んでいるので
ある。いずれのコースも満員であろう。この先へクリックを進めれば、羽田や伊丹発の奄美大島ツアー同様、「満員です」
と出てくるに決まっている。第一、十島村の日食アンケートに答えなかった人間に、トカラ列島へ渡る権利など与えられる
はずがない。
あ〜あ、トカラはいいなぁ〜。皆既継続時間は奄美の倍くらいあるし、秘境だし・・・。行ってみたいなぁ・・・。
ちゃんとチェックし続けていればよかったなぁ〜・・・。
愚痴ともぼやきともつかない思いを抱きつつ、徒然なるままに何日も何日もホームページを眺めていて、ふと気がついた。
トカラ各島へのツアーコースの数、23に比して、「申込み」に出てくるコースの数が随分少ないのである。これは何を
意味しているのか?
そこで、ふと「申込み」をクリックしてみようと思い立つ。
おや・・・? 「満員です」が出てこない・・・。
そればかりか、次へ、次へ、とリンクが続いて行く。やがて「申込みフォーム」が現れたのである。
こんなことってあるのだろうか?そんな、馬鹿な・・・。
皆既日食二ヶ月前のこの段階で、1500人限定のトカラ列島に、まだ行くことの出来るツアーがあったのだ!
第3次募集!これは夢ではないのか?本当に現実なのであろうか!?
立ちはだかる壁
あこがれのトカラ列島へ行くチャンスが目の前に転がっている。しかし、私ごとき者が、本当に申し込みをしても大丈夫
なのだろうか?
ツアーに申し込むには、「外堀」から「本丸」に至る様々な障壁を突破しなければならない。
外堀:アンケートに答えていない人間が申し込めるのだろうか?
城壁:ヒザと手首の傷で萎えきった体が、炎天下の長旅に耐えられるのか?
内堀:ツアーはすべて鹿児島か沖縄発だ。そこまでの交通手段の確保が、今からで間に合うのか?
石垣:絶海の孤島への長い旅、それだけの休みを取ることが出来るだろうか?
本丸:値段が上海や奄美の3倍にもなる旅に、我が家の総理 兼 財務大臣が首を縦に振るであろうか?
「外堀」は、どうやら杞憂であった。そういう制限は設けられていないようだ。あっさり埋めることが出来た。
「城壁」は、根性で乗り越えるしかない。
「内堀」。鹿児島や那覇へ行くには、飛行機の利用が理想的である。今まで、自分で飛行機のチケットなど取ったことが
なく不安だったが、今はインターネットで空席状況の確認や席の予約が出来るようである。便利な時代になったものである。
七月下旬の、海の日を含む三連休のあたりでも、鹿児島・沖縄ともにまだ若干の空席はあるようだった。
「石垣」、すなわち休暇取得は、子供の頃、この日食を見たいと思った時から想定されていた障壁である。私の職場は、
有給休暇を取ることに比較的寛大だが、一週間も十日も留守をすると言うことになるとやっぱりねえ・・・。色々と留守中
の仕事の段取りをつけるのも大変だし・・・。
ツアーに要する日数は、おおむね数日から十日間だが、現在募集中の中には、鹿児島発着で4泊5日というのがある。
鹿児島への往復にも一日ずつを要するから、実質6泊7日となるが、7月18日(土)に家を出発して、週末24日(金)
には帰宅・出勤が可能な計算になる。週に一日、金曜日だけでも出勤すれば、職場の同僚の印象も随分印象が違うであろう。
それだけひんしゅくを買わずに済むというものである。20日(月)は海の日で祝日だから、有給休暇は火・水・木の
3日取ればいい。こんな日程があるとは、奇跡的だ。ありがたい。私が行けるとしたら、これしかない。
それは、宝島へのコースであった。
宝島G2コース(鹿児島発着4泊5日) |
7月19日(日)午後 鹿児島 → 奄美大島
20日(月)夕方 奄美大島 → 夜 宝島
21日(火) 終日フリー
22日(水) 皆既日食
夕方 宝島 → 奄美大島 深夜 奄美大島 発
23日(木)昼頃 鹿児島着 |
「本丸」をめぐる攻防
さて、なんと言っても問題は、「本丸」の攻略である。我が家の総理 兼 財務大臣(さらに神様も兼ねている!)の了解を
得られるかという、最大にして最強の大障壁が立ちはだかっているのである。
上海行きの話が出たのは、手首負傷直後であり、明日から100qも離ればなれの生活になることもあって、多分に同情
的・感傷的な気分で、OKを出したのであろう。だが今度は、冷徹な判断が下されるに違いない。上海の3倍の費用、どう
申し開きをするべきか・・・。
単身赴任地から電話をする。
「本当に日食を見に行ってもいいかなあ・・・。上海じゃなくてトカラ列島に行けそうなんだけど。」
雄弁は銀、沈黙は金という。多くを語らないのが男というもの。
とりわけ、夢とロマンを語るのに、金銭がらみの下品な話は不要だ。普通に考えれば当然、海外旅行より国内旅行の
方が安くつくと思えるわなあ・・・。
かくして承認決済は、おりた。トカラ行き申し込みの障壁中、最難関の「本丸」を、真っ正面から正々堂々と(?)
突破することが出来た。
しかし、許可がおりたからと言って財務省の蔵の扉が開かれ、経済的支援の手がさしのべられるわけではない。単身赴任
先での財政がますます窮乏を極める事になるだけのこと。先行き大いに不安である。
奄美や上海なら、トカラの頭金(申込金)だけで行けてしまうのに・・・。スネかじられ生活も6年目。この先も、中断を挟んで、
あと7年はスネが細る予定である。疲弊しきった我が家の経済状態で、こんなに金を使ってしまって、本当に大丈夫なのだろうか?
長い長い躊躇の末、えいっ、ままよ!と目をつぶって、私は申込みフォームのOKボタンを押した。
「皆既時間の長さが、値段の違い」と、ムリヤリに、自分のココロとフトコロを納得させながら・・・。
後日談@
宝島へ行って、いろいろな人と知り合う中で、ツアー申し込みの苦労話に花が咲いた。第1次募集で抽選に外れ、
第2次・第3次募集でようやく申し込めたという人もけっこういる。やはり悪石島が、倍率も高くて難しかったようだ。
逆に、抽選に当たって手続きをしたものの、仕事などのやりくりがつかずキャンセルする人もかなりいたという。おかげ
で第3次募集が行われ、5月になってからでも私が申し込めたのかもしれない。
そうかと思えば、申し込みとキャンセルを繰り返しながら、ベターなツアーを追求し続けた人もいる。ツアー1ヶ月ほど
前までは、キャンセル料が発生しないシステムだからである。
私と同じ、宝島4泊5日のツアーに参加した人の多くは、やはり日数の短さゆえにこのコースを選んだとのことであった。
皆さん、仕事のやりくりには苦労されているのである。帰ったらすぐに仕事、という人が多かった。
後日談A
宝島へ申し込んだ後、何日か経って、悪石島への3泊4日というツアーが「申し込み」に現れた。誰か、悪石島をキャン
セルした人がいるのだ。これは、トカラ日食ツアー中、もっとも短い日数である。悪石島へ、こんな短い日数で行けるとは・・・。
那覇を7月20日(月)の海の日に出発し、鹿児島帰着は23日(木)。帰りは私の申し込んだ宝島コースと同じ船を使う。
仕事を休むのが火・水・木の3日間であることは、3泊4日の悪石島でも4泊5日の宝島でも同じであるが、皆既継続時
間は、宝島の5分55秒ほどに対し、悪石島は6分20秒ほど。この差は大きい。なんと言っても悪石島は皆既帯の中心、
人気ナンバーワンの島なのだ。
宝島をキャンセルして、悪石島3泊4日に申し込もうか、心が揺れ動く。
このトカラへのツアーは、人数が限定されているためであろうか、ダブルブッキングは禁じられている。2重に申込みを
すると、両方とも無効になるシステムであるという。コース変更という形も認められていない。すでに申し込んである宝島
をキャンセルしてからでないと、別のコースには申し込めないのである。申し込みはすべて、インターネットで、他の手段は
ない。従っておそらく、ダブルブッキングのチェックは、容易に出来るのであろう。
今回出た悪石島コースは、何人申し込めるか分からない。おそらくごくわずかであろう。もし、キャンセルから申し込みの
間に、他の人に取られてしまったら、悪石島も宝島も、両方がパーになってしまう。そのリスクが怖くて実行に踏み切れない。
そこで、悪石島申し込みに踏み切れない自分を納得させ、断固「宝島」に行く気になる理屈を考える。
@悪石島3泊4日は、出発地が那覇、帰着地が鹿児島である。すでに鹿児島への航空券を「往復」で手配してある。行き
だけのキャンセルは出来ないという。キャンセルすれば最初から飛行機の予約の取り直しとなる。今になって新たに
那覇行きと、鹿児島から帰る便の両方を手配できるか分からない。
A宝島にも、色々と魅力がある事が分かってきている。サンゴの島でいかにも南国風。海水浴場もある。リゾート気分が
味わえるかも知れない。悪石島は、周囲に絶壁がそそり立つ火山島だ。その名の通り、険しく厳しい島かも知れない。
B注目度の高い悪石島には、マスコミ関係者が多数入っていることであろう。取材など受けていては、皆既日食に集中
できなくなるし、観測のジャマになる。第一、恥ずかしいではないか。
C悪石島への到着は日食「前日」の朝となるので、時間的に厳しくなる。宝島は到着が日食「前々日」の夜なので、
日食まで時間的に余裕がある。(実際に活動できる時間に大きな差はないのだが・・・)
Dフェリー「としま」は、悪天候や時化の影響を受けやすい。万が一、運行に支障が出た場合、先の便となる宝島コース
の方が優先して島に渡れるだろう。後の便となる悪石島コースは、日食当日の上陸とか、場合によっては日食に間に合
わないなどと言ったリスクが、より高くなるのである。(長野冬季オリンピックのジャンプ競技の時、新幹線長野駅から
観客を運ぶためのバスが、競技時間中に会場に到着できなかったというニュースが頭をよぎりました。日食の時間に
間に合わなければ、すべてが水の泡になるのです)
E悪石島は、日食(第4接触)が終了すると、ほとんどすぐに帰りのフェリー「としま」がやってくる。観望だけの人は
それでもいいが、赤道儀を使って写真撮影をした場合、機材のかたつけと梱包にかなりの時間がかかる。おそらく
第4接触のかなり前に撮影をやめないと、フェリーの時間までに機材撤収は終わらない。そうなれば、帰るに帰れず、
島にも残れず、本当に「お手上げ」状態になる。日食の全経過の撮影は難しいのである。宝島へフェリー「としま」が
来るのは、悪石島より3時間ほど後になるので、日食終了まで撮影してからでも機材撤収ができる。
(それでも、本当はもっと時間が欲しいくらいである。)
@・Aは、とってつけたような、まさしく言い訳であるが、B以降は考えてみればかなり重要である。特にD・E
は深刻な問題となるだろう。
悪石島で、皆既日食以降も島でゆっくりできて、余韻を味わえるコースならば最高だが、仕事の都合でそうも行かないと
なれば、宝島4泊5日コースが、今の私にはベストチョイスなのかも知れない。
第一、「宝」と「悪石」、どっちが縁起のいい名前か、誰の目にも明らかである。
どうだ、やっぱり宝島だろうが! 悪石島、それ見たことか!(スミマセン、これは暴言です。)